【1-診断まで】
1-1
受診
不調が2週間以上続き辛いとき、受診を考えていただきます。うつ関係のチェックリストがひとつの参考になります。
1-2
診断
これは専門のお医者さんに任せましょう。 診断基準のようなものがありますが、それは目安であって、 それだけで決まるものではないと考えてください。診断に応じて、次のような対策を取ります。
1-3
薬
抗うつ剤(SSRI、SNRI)、抗不安薬、睡眠導入剤、胃薬、漢方薬などをおすすめします。 現代のうつ治療には不可欠のものと思いますので、考えてみてください。
1-4
ストレス軽減
対策を一緒に考えましょう。
1-4-1
時間
残業なし、半日勤務など、時間を制限した勤務をしていただくことがあります。 また、出張の制限を指示することもあります。
1-4-2
仕事内容
仕事の内容について、たとえば内勤をお願いするとか、軽作業に切り替えるとか、 お願いすることがあります。
1-4-3
休職
必要な場合には、休職のお願いをします。あわせて、自宅での休養の仕方を指導します。
【2-休職前期=完全リラックスの時期】
この時期は、概ね、2週間から1ヶ月程度、あるいはそれ以上になりますが、 完全リラックスの時期とお考え下さい。
この機会だから、普段できなかったことをしよう、などとは思わないことです。なるべく受動的な楽しみで過ごしましょう。テレビをボーッと見るとか、負担にならないような雑誌をめくるとか、そんな程度のことです。大リーグの中継などがちょうどいいようです。
あるいは、ずっとベッドに横になっていて、ラジオをつけっぱなしにしている、 そんな過ごし方も多いようです。
よく眠ること、食欲がだんだん回復すること、そのあたりが目標になります。お薬がだんだん効いてきますので、ご安心下さい。
会社から電話やメールが来て、ドキドキすることも多いと思いますが、不安が強い場合には配慮していただくこととしましょう。
傷病手当金により、休職中の経済をまかなうことができることもあります。制度を確認しましょう。
【3-休職後期=復職準備リハビリの時期】
そろそろだいぶ気分も変わってきたなあという頃です。
だいたい1ヶ月から2ヶ月の頃ですが、いきなり復職するのではなく、この時期を復職準備のリハビリにあてます。
自宅で休養をとって、だいぶいい、散歩もできる、買い物にも行けるという段階になっても、 家庭生活と職場ではやはりストレスに「段差」があります。
3-1
通勤
ひとつの壁が通勤です。朝起きて、電車で会社まで行けるかどうか。 その練習をします。
3-2
作業
机に座っていて、作業をこなせるか、練習します。
たとえば、大学生が読む程度の本を読んで、 どのくらい頭にはいるか、集中力を確認します。
3-3
具体例:図書館訓練
あなたの会社の近くの、公立図書館を使うと考えてください。
朝電車で図書館に行きます。昼ご飯を食べ、夕方に帰ります。最初は時間を短く、だんだん長くしていきます。
最初は雑誌をめくるだけ、だんだん専門の本を読んでみます。疲れたら無理をしないで、休みます。
視聴覚室でCDやDVDを視聴できる施設も多くなってきましたので、 使ってみましょう。お医者さんは体調に合わせて、薬を微調整します。
上野の東京文化会館ではクラシック関係のLP、CD、DVDが視聴できます。美術館で気晴らしに絵も見られるし、博物館で仏像も見られます。
喫茶店も沢山ありますから、上野もリハビリにはいい場所だと思います。マンガ喫茶がいいという人もいます。お好きなところへどうぞ。
【4-復職設定 復職プログラムの設定】
会社の制度によって異なりますが、 上司、人事、産業医、産業保健婦など、関係者が復職審査会を持ち、 復帰のプログラムを決定します。
4-1
時間
隔日勤務、4時間勤務、6時間勤務、8時間勤務、残業1時間許可、などを具体的に決定します。 それぞれを1-2週間程度続け、確認しながら、次の段階に進みます。
通常勤務に復するまで、全体で2〜6ヶ月程度が多いようです。
4-2
仕事内容
これは各職場によってさまざまで、一概に決められないことなのですが、軽作業、負担の軽いもの、重大な責任のないもの、慣れ親しんだ仕事、 チームよりもひとりの仕事、から始めるのが望ましいとされています。
時間と同じく、仕事の負荷についても、1-2週間ごとに見直し、段階的に上げていきます。
4-3
部署異動
復職の原則は、もとの職場にもどることです。
異動してしまえば、新しい仕事に適応する困難があり、さらに新しい人間関係を築く苦労もあるからです。
しかし場合によっては、部署の移動をお願いすることがあります。この点を会社側と打ち合わせます。
病気になる前の、職場での評価、役割、職場でのストレスの程度などが考慮されます。
4-4
サポート体制
職場での相談役をきめて、ひとりで悩まないようにします。
「その仕事は、まだ無理です」と自分では言えない場合が多いので、そんなときの相談役にもなってもらいます。
また、その人が主治医に状態を報告して、薬剤調整に役立てます。多くは上司がこの役に当たりますが、上司には何も言えないという人も多いもので、やはり誰かが間に入った方がいいようです。産業保健婦や産業カウンセラーが一般には適任です。
上司の方の理解を深めるために、クリニック側から教育的接触をすることがあります。
4-5
なぜリハビリ勤務が必要か。
本人も会社も、できるなら、リハビリ勤務などせずに、いきなり通常勤務したいわけです。
しかし、実際はそれが難しい。
精神症状が消失したということと、
職場で仕事ができるということとの間には、やはり「段差」があります。
復職判定を合理的に行うために、「復職準備度の評定」などが試みられていますが、いまのところ、正確に評価することはできません。
「やってみないと分からない」のが実情です。
復職してうまくやっていけるかどうかは、病気の回復程度の他に、
仕事のストレス、
対人関係のストレス、本人の性格傾向、
家庭でのストレスなど、いろいろな要因があり、複雑すぎるため、単純に評価することはできません。
職場での実際のストレスについては、
主治医や産業医が評価することは難しいのが現状です。
こうした事情で、「リハビリ勤務」が行われています。
【5-復職前期】
復職プログラムに従い、服薬したままで、仕事を始めます。
まず最初の目標は、通勤に慣れること、職場で時間を過ごす感覚を回復することです。ここは思ったよりも「段差」を感じる部分です。
疲れたら無理をしない、睡眠、食欲を維持する。
最大疲労を100として、日々の疲労を60以内程度に維持したいものです。自分の疲労度を客観的に評価する習慣をつけることは今後役に立ちます。
ストレスチェックや疲労度チェックがいろいろとありますから、活用しましょう。
周囲の人も、疲労度60/100以内くらいをめどに、見守ってください。
この時期の休日は、アクティブな気晴らしはほどほどにして、むしろ休息を中心にしましょう。
【6-復職後期】
復職プログラムに従い、次第に通常勤務に近付けていきます。早く、よりも、慎重に確実に、を目標にします。
仕事の負荷を増やすとともに、家庭生活での活動も拡大しましょう。
完全に通常生活にもどったことを確認してから、徐々に薬剤を減量します。自分の場合、再発予防に大切なのは何か、 また、病気の始まりにはどんなことが起こるのか、知っておけば、今後の役に立ちます。
全体を通じて、症状には波があることが多いものです。三寒四温ともいいます。
一時的な悪化があったとしても、焦らないことが大切です。だんだんよくなります。
また、世の中にはいろいろな考えの人がいます。
そうしたことは、自分の体調が悪いときには、ことさらに、つらく感じられるものです。しかしそこは一緒にこらえましょう。
あなたはひとりではありません。たくさんの理解者がいます。
うつ病患者復職準備尺度
復職デイケアに取り組んでいる三重大学グループの「うつ病患者復職準備度尺度」Restoration Readiness Inventory in Depression(R2ID)] v.2.0を紹介します。まだ開発中です。
岡崎祐士、西田淳志、伊藤雅之:うつ病で病休·休職中の患者の「復職可能」診断をめ ぐって-うつ病患者復職準備度尺度試案-臨床精神医学 35(8):1059-1067, 2006
[評価領域・分野・事項] 評価領域はI、II・・・、分野は1,2・・・、事項は①、②・・・で示す) IとIIはその領域の該当項目数で、IIIからVIIは評価段階(重症度)によって、復職準備度を表す。大きい項目数または高い評価段階ほどよいことになる。異なる評価領域、評価分野、評価 項目が同じ重みであるとはいえないので、将来は総合判断する際の重み付けの検討・設定が必要 になる。
I.現在の全般健康状態・・・・・該当項目に○ 1.雰囲気が明るい、存在感がある
2.顔色・肌つやがよい、表情に張り3.語尾明瞭で、声に張り
4.動きに切れ、体に充実感5.寝起きがよい
6.おいしく食べる
7.満腹するとすこし眠気、居眠り8.微熱・風邪気味は2週間以上ない
9.お腹が安定(下痢・軟便は2週間以上ない) 10.口や喉はカラカラにならない
11.自然に外出、次の予定がある
Ⅱ.睡眠とリズム・・・・・・該当項目に○
1.入眠に苦労しない、またはいつの間にか入眠する2.途中覚醒1回以下、目覚めてもまもなく眠れる3.悪夢、多夢、寝汗の眠りがない
4.自然な起床時間で、寝起きがよい
5.ぐっすり眠った感じがあり、日内変動(午前型/午後型)も目立たない
Ⅲ.疲れやすさ(ストレス反応性とストレス耐性)・・・・・凡そ該当する評価段階に○ 1.日常作業による過敏・疲労反応
①見る/読む作業
0.新聞・雑誌は見たくもない1.新聞・雑誌は目次を見るだけ
2.長い記事もよむ、少なくとも1つの記事を最後まで読む3.新聞・雑誌を全体にわたって目を通す
4.新聞記事を通して読める、文庫本を数日で1冊読み上げる5.単行本を複数冊つづけて読み上げる
②キーボード・書く作業
0.ペン・鉛筆、キーボードに触りたくない 1.転記、キーボードで文書見ながら入力できる2.短い文章が作れる
3.与えられたテーマの作文、返事や便りが書ける
③.テレビ
0.音がうるさく感じテレビの前に行かない・スイッチを切る1.ついているテレビは何となく見る
2.ニュース・バライエティーは見る3.ドラマや座談会を筋を追って見る4.好きな番組を見るようになった
④.趣味
0.何もしたくない、面白いことは何もない1.趣味のことを考える
2.趣味を少しやってみる
3.趣味をやるために用をする(外出、買い物) 4.趣味のため知人等に連絡したり会ったりする
⑤.家事
0.横になっていることがほとんど1.自室の片づけ、掃除機
2.家の掃除・食器の片づけを手伝う(主婦/夫を兼務の場合、食事の片づけ程度)
3.浴室の掃除をする(主婦/夫を兼務の場合、出来合を買うなど簡単な食事ならできる)
4.買い物のお使いをする(主婦/夫を兼務の場合、朝食の準備ができる)
5.家族と買い物に一緒に出かける(主婦/夫兼務の場合、夕食の献立、買い物、料理が自然にできる)
⑥.運動
0.食事やトイレ以外ほとんど横になっている1.昼間起きている時間が多い、入浴はおっくう2.入浴はほぼ毎日、外出もできる
3.昼間の外出可能、屋内で軽い運動
4.運動のための散歩、プール・ジムに行く、趣味の運動2.一般対人ストレスによる過敏・疲労反応
①外出
0.外出できない
1.夕方・夜間・休日(近くのコンビニ等)可能2.昼間(勤務時間)外出可能
3.次に人と会う予定がある
②近隣とのつきあい
0.近隣と会うのを避ける1.隣人とのあいさつ可能2.近隣との立ち話程度可能3.近隣の会合参加可能
③子どもの相手
0.子どもがうるさい1.一緒にいられる
2. 屋内で短時間なら相手できる
3. 比較的長時間相手できる・外で遊べる
④.職場外での対人関係
0.電話にでることができない(ベルにびくっとする) 1.電話では他人、会社以外の友人、親戚との会話可能
2.職場外友人の来訪、自身の親戚来訪への応対可能3.姻戚の来訪への応対可能
4.職場外友人と外で会う・会食可能5.姻戚宅への配偶者と一緒の訪問可能
3.職場関連ストレスによる過敏・疲労反応
①職場情報
0.職場に関することは話もできない。すべてに過敏・疲労反応1.家族となら会社事項も話せる
2.職場からの郵便・文書を処理できる3.休日・夜間なら職場近くへ行ける
②職場関連対人関係
0.職場からの電話にもでることができない、でたら強い過敏・疲労反応1.職場からの電話にでるが、過敏・疲労反応が軽度生じる
2.職場からの電話(同僚、上司、人事)対応可能3.職場関係者訪問対応可能
4.職場への訪問可能(過敏・疲労反応は、緊張亢進、入眠悪化、途中覚醒、悪夢や多夢、起床悪化で判断)
Ⅳ.自殺危険性・・・・・・凡そ該当する評価段階に○ 0.自殺企図の既往がある。
死について具体的に考えることがある1.自殺企図の既往はない。
普段は考えないが頭の隅には死に関する考えが残存している2.自殺企図の既往はない。
自殺を考えたことを思い出すこともあるが、家族や周囲への迷惑となるし、死が解決の手段とは思わない
3.自殺企図の既往はない。
死によって何も解決しない、今後その様な考えが生じたらすぐに相談するようにしたい
Ⅴ.復職可能診断のいきさつ・・・・凡そ該当する評価段階に○ 1.今回の「復職可能」診断のきっかけは、
1.患者の希望によるもの2.家族の希望が働いたもの3.医師の判断による
4.患者の希望と医師の判断の一致によるもの
2.患者の希望による場合、医師は、0.医師はまだ早いと感じている
1.復職への本人の焦り(喪失を取り返したい、収入確保など)がある2.職場の復職期待・意向による無理がある
3.家族の希望・意志が働いた無理
3.患者の復職希望の適切性
0.早すぎる、病状再燃の可能性がある1.やや早すぎる、準備期間が必要
2.復職訓練(職場または職場外)を試みてもよい3.軽減勤務なら可能
4.今からでも復職は可能
4.家族の復職をめぐるサポートの適切性 0.無理な・患者の負担になる要求がある1.後押ししすぎ
2.サポート不足
3.適切なサポートがある
5.復職を巡る職場の対応の適切性
0.治療や回復に却って妨げになる対応がある1.積極的対応がない
2.対応の柔軟化や改善が望まれる
3.適切な対応がある(健康管理システム、相談体制)
Ⅵ.病気の理解と自己管理・・・・・・凡そ該当する評価段階に○ 1.うつ病に関する理解
①症状や病気
0.理解がない
1.いろいろの困難を症状として理解
2.薬物療法などの治療の必要性の説明を理解している3.自ら本などでも学んだ
4.集団の演習(SST/デイケア)でも学んだ
②成因
0.ストレスの関与への理解がない
1.今回のエピソードの前のストレス、生活上の無理の自覚2.性格的な側面の関与の自覚
3.再発注意のための具体的な対策を考えている2.自己管理
①ストレスを避ける方法0.何も学んでいない
1.言葉に出してはいえる2.本などで学んでいる
3.デイケア場面などで観察されている
②服薬の必要性自覚と実際の服薬状況0.飲み忘れや中断あり
1.主治医や家族に言われると服用する
2.飲み忘れは月に数回以下、本などで学んだ3.必要性を自覚しほぼ忘れることなく服薬
③定期受診・相談ができる0.自らは受診しない
1.家族に促されると受診する
2.自ら受診するが、肝腎な相談はしない(家族が主治医に伝える) 3.自ら定期受診、必要に応じて臨時にも受診し相談する
④相談しサポートを得られる
0.医師以外に相談する人がいない1.家族には何でも話せる
2.相談できる友人もいる
3.職場にも相談できる同僚・上司、健康管理担当者がいる